マルグリット・デュラス『モデラート・カンタービレ』

モデラート・カンタービレ (河出文庫)作者: マルグリット・デュラス,田中倫郎出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 1985/05/01メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 43回この商品を含むブログ (23件) を見る 「モデラート・カンタービレ」という音楽用語が、…

J.G.バラード『楽園への疾走』

楽園への疾走 (海外文学セレクション)作者: J・G・バラード,増田まもる出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2006/04/22メディア: 単行本 クリック: 10回この商品を含むブログ (18件) を見る 以下、漫然とした所感を箇条書き。 絶滅の危ぶまれるアホウドリた…

こうの史代『街角花だより』

街角花だより (アクションコミックス)作者: こうの史代出版社/メーカー: 双葉社発売日: 2007/03/12メディア: コミック購入: 5人 クリック: 36回この商品を含むブログ (82件) を見る 単行本の初出一覧の記述を信用するなら、表題作である「街角花だより」とい…

ロブ=グリエ『迷路のなかで』

迷路のなかで (講談社文芸文庫)作者: アラン・ロブ=グリエ,平岡篤頼出版社/メーカー: 講談社発売日: 1998/02/10メディア: 文庫購入: 6人 クリック: 20回この商品を含むブログ (27件) を見る 物語の内容水準に限った感想を書き留めておく(翻訳の平岡篤頼さん…

ロブ=グリエ『覗くひと』

覗くひと (講談社文芸文庫)作者: アラン・ロブ=グリエ,望月芳郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 1999/03/10メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 7回この商品を含むブログ (14件) を見る この小説の中で頻繁に現れる象形文字のような「8の字」*1のイメージを、…

回帰することのない現在

……世の中にはいわゆる記念日ってものがある。私人の小さな区切りとしての誕生日やら結婚記念日、喪の儀式としてのо回忌といったものから、大きな規模では、一国の独立記念日だとか終戦記念日。 たとえば、「1967年2月27日」という歴史的(単独的)な日付は、ほ…

杉浦茂『円盤Z』

円盤Z (河出文庫)作者: 杉浦茂出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2003/06/05メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 10回この商品を含むブログ (4件) を見る 毎月何冊かずつ、ちょこちょこと杉浦茂の漫画を買うのを日々の楽しみにしているのだけれど、(最初…

大友克洋『スチームボーイ』

スチームボーイ 通常版 [DVD]出版社/メーカー: バンダイビジュアル発売日: 2005/04/14メディア: DVD購入: 1人 クリック: 42回この商品を含むブログ (278件) を見る 公開当時に劇場まで足を運んでみた作品だけど、あらためてDVDで。……で、重ねてあらためて瑣…

ミシェル・ビュトール『心変わり』

心変わり (岩波文庫)作者: ミシェル・ビュトール,清水徹出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2005/11/16メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 35回この商品を含むブログ (39件) を見る ヌーヴォー・ロマンの作家の作品を読んだのは初めて。二人称で語られる小説…

J.G.バラード『時の声』

時の声 (創元SF文庫)作者: J・G・バラード,吉田誠一出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 1969/05/02メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 25回この商品を含むブログ (27件) を見る バラードの宇宙においては、真理が開示されること、あるいは真理を入手すると…

H.C.アンデルセン原作/赤木かん子/高野文子『火打ち箱』

火打ち箱 (こんなアンデルセン知ってた?)作者: 赤木かん子出版社/メーカー: フェリシモ発売日: 2006/09メディア: 単行本購入: 9人 クリック: 31回この商品を含むブログ (50件) を見る 高野文子のペーパークラフトを見ることが出来るというので前からちょっと…

贅言一つ

「労働者はみずからの時間を売る」と定義することが出来るのだとすれば、ごく普通一般にそう呼び慣わされることが通例となっているあれやこれやのいわゆる「商品」(生産物)といった物財もまた、その固有の生産過程において有用な労働が吸収されるために費や…

松本大洋/永福一成『竹光侍』(1)

竹光侍 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)作者: 松本大洋,永福一成出版社/メーカー: 小学館発売日: 2006/12/01メディア: コミック購入: 4人 クリック: 75回この商品を含むブログ (107件) を見る amazonにオススメられて『竹光侍』を購入。松本大洋の漫画は『ピ…

押井守『イノセンス』

(記録をかねて、前に書いた拙い文章を、じゃっかんの手直しを加えてアップしておこうと思う。2年前のやつ。あらためて読み返してみて、われながら鼻持ちならない語調の文章だし論旨も飛躍しきってよく内容を掴みづらい悪文だけど、若書きってことで自分で自…

『攻殼機動隊STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society [DVD]出版社/メーカー: バンダイビジュアル発売日: 2006/11/24メディア: DVD購入: 4人 クリック: 145回この商品を含むブログ (309件) を見る(ネタバレを含みます) 正月休みに入ってようやく『攻殼機動隊…

杉浦茂『怪星ガイガー・八百八狸』

杉浦茂傑作選集 怪星ガイガー・八百八狸作者: 杉浦茂出版社/メーカー: 青林工藝舎発売日: 2006/11/22メディア: 単行本 クリック: 30回この商品を含むブログ (28件) を見る 杉浦茂のマンガを初めてじっくりと読んだ。購入も初めて。五五年に「漫画王」、「少…

J.G.バラード『コンクリート・アイランド』

コンクリート・アイランド作者: J.G.バラード,大和田始,國領昭彦出版社/メーカー: 太田出版発売日: 2003/08/26メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 10回この商品を含むブログ (19件) を見る 七0年代中期を通じてバラードによって書き継がれた『クラッシュ…

こうの史代『さんさん録』

さんさん録 (1) (ACTION COMICS)作者: こうの史代出版社/メーカー: 双葉社発売日: 2006/03/11メディア: コミック購入: 10人 クリック: 50回この商品を含むブログ (173件) を見る こうの史代の『さんさん録』という漫画は、一種の幽霊譚として読むことが出来…

京極夏彦『邪魅の雫』

邪魅の雫 (講談社ノベルス)作者: 京極夏彦出版社/メーカー: 講談社発売日: 2006/09/27メディア: 新書購入: 3人 クリック: 51回この商品を含むブログ (619件) を見る デュパンからホームズ、ポアロ、或いは明智から合田、或いは京極堂(!)にいたる刑事、探偵…

ルクレティウス『物の本質について』

ルクレティウスは『物の本質について』の第二巻で、人々の抱く(観念によって先取りされた)死に対する恐怖を批判している。要約すれば、それは、精神にとって死すべきことが本質である以上それを恐れるいわれなどはどこにもない、ということになるのだろう。…

三浦建太郎『ベルセルク』(追記)

(昨日のエントリーの続き、というか、別の視点からの補足)。 『ベルセルク』というアクション漫画が、昨日書いたような事柄すべてを覆して、それでもなおアクション漫画足りえている(読み手の意識に対して見逃しがたい動感をもたらしている)点があるとする…

三浦建太郎『ベルセルク』

ベルセルク (31) (Jets comics (267))作者: 三浦建太郎出版社/メーカー: 白泉社発売日: 2006/09/29メディア: コミック クリック: 16回この商品を含むブログ (122件) を見る(以下は、『ベルセルク』の物語の内容とはほとんど関係のないはなしです)。 ひと月…

ユクスキュルのダニ

洗面所の化粧台の上の天井にクモが巣を張ってもう1週間くらいになる。ひょっとしたら十日くらいにもなるかもしれない。全身が赤っぽい茶色で、ちょうど手の親指ほどの大きさの、脚の長いそのクモは、天井と二面の壁が合わさる角の奥まった隅っこにいつの間に…

こうの史代『長い道』

長い道 (Action comics)作者: こうの史代出版社/メーカー: 双葉社発売日: 2005/07/28メディア: コミック購入: 4人 クリック: 81回この商品を含むブログ (228件) を見る 雑誌連載だったらしいこうの史代の『長い道』という作品は1話につき3、4ページから成る…

J.G.バラード『クラッシュ』(ペヨトル工房)

'73年に発表されたこの小説がそれ以前のバラードの作品に対して切断しているものがあるとすれば、それはたぶん、隠喩というものへの作家の態度変更というところにあるかもしれない。以前読んだ『沈んだ世界』にしろ『結晶世界』にしろ、つまるところ有体に言…

HIGH TECH SOUL

High Tech Soul The Creation Of Techno Music [DVD]出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント発売日: 2006/08/25メディア: DVD購入: 2人 クリック: 4回この商品を含むブログ (18件) を見る「24アワー・パーティー・ピープル」とよく似ているように思っ…

高野文子「奥村さんのお茄子」(高野文子『棒がいっぽん』所収)

棒がいっぽん (Mag comics)作者: 高野文子出版社/メーカー: マガジンハウス発売日: 1995/07/01メディア: 単行本購入: 18人 クリック: 147回この商品を含むブログ (160件) を見る 「かわいいコックさん」の絵描き唄は、高野文子の「奥村さんのお茄子」という…

高野文子「田辺のつる」(高野文子『絶対安全剃刀』所収)

たとえば、こうの史代の「夕凪の街」という作品の最後の数ページは、病床に臥せった主人公(皆実)の視点から見られた光景やお見舞いに訪れる人たちの顔が徐々に(しかし、急速に)彼女の視界から奪われていき、遂にもはや何も見ることの出来なくなってしま…

高野文子『絶対安全剃刀』(白泉社)

この作品集のいちばん最後に収録されている「玄関」という短篇は、それを目にして、ああ高野文子のマンガだなあ、という感慨を抱くより仕方がないような仕上がりを示してみせてくれる。 作品の流れの中では最後に据えられている母と娘(「えみこ」)二人の後…

ポール・ヴァレリ−『ムッシュー・テスト』(岩波文庫)

ムッシュー・テストは中間領域に現われる。それはなによりもまず知識人階層と無名の大衆たちとのあいだの社会集団的な地帯であり、劇場の舞台と観客席とのあいだであり、また覚醒と眠りとの狭間であり、あるいは首都(パリ)へと移行する夜間列車の客席の中…